2022/04/05 23:30
お菓子を作る人でないと知らないことは多いのですが、お菓子の型というものは本当に高価なものなのです。
焼き菓子は型次第と言われるように、いい形、いい火入れを可能にする【型】はやはり値段が高く、わかりやすい例だとカヌレの銅型などがあります。
あれ一個で2200円くらいです。
一生使えるとは言え高いです。
僕はよくお菓子の型を多用して【派生系】を考えます。
その派生系について今日は書いてみたいと思います。
レモンケーキやフィナンシェと言った【パッと見ればわかる形】のお菓子の型は、多くの場合【それしか作れない】という思い込みが一緒になって付いてきます。
レモンケーキの型なんだもん。レモン入れなきゃだめでしょ!のように。
僕は一人で狭いキッチンでやっているため、あまり多くのものを収納できません。
そのため同じ型を使って別のお菓子を仕上げることがありますが、その時次のことにとても注意して作っています。
【形で想像する固定観念を忘れるような美味しさと新しさを】
レモンケーキの形を見たら無意識のうちにレモンケーキの味を想像してしまう。
マドレーヌの形を見たら無意識のうちにマドレーヌの味を想像してしまう。
人は思っている以上に自分の固定観念に味を引っ張られるもので、その固定観念の重力を振り切って【新しいもの】として認識してもらうためには、いつも以上のびっくりが必要だと考えています。
今回のクランベリーショコラのケーキには【表立って味わってもらえるチョコレートの風味】にインパクトを絞り、その香りや心地よさをどうやって後ろから支えるかが問題でした。
そしてメインとなるチョコレートは風味を楽しんでほしいので、普段はあまり注力しない【カカオパウダー】で構成を考えました。
チョコチョコすると冬らしさが出てしまうしくどくなってしまうので。
夏のチョコレートは軽い風味と落ち着いた甘さ。
そこに必要なココアパウダーを今回ようやく探し出せたので、やっと作れたお菓子なんです。
次に夏らしい甘さと風味のバランスが取れたチョコレートに、どうやって奥行きと爽やかさをプラスして立体的に作り上げるか。
それは【レモンの苦味】と【クランベリーの大人な酸味】です。
決して主張しないけれど、いなければ全てがまとまらない立役者の二人には、
それぞれ足りない部分を補いながらも時折顔を覗かせるような儚さと気の利くアシストが求められます。
今回は【きっとこのロジックには1種類の柑橘だけではなく、複合的に混ざり合った酸味が必要だ】と感じていましたので、旬のレモンとシロップ付けのクランベリーが選ばれたのです。
今回ここでなにが言いたいのかというと、
いつも出てくる【派生系】はなんちゃっての思いつきではなく、複雑に考えられて作られているということ。
場所が狭くたくさんの型や大きな型が使えない分、皆様に提供するお菓子には物理空間をフル無視した僕の脳内空間がフルに使われているということです。
昨今のペアリングという言葉の広がりが本当に嫌いです。
料理の基礎もないペーペーでも簡単に口に出せる【ペアリング】という初心者チックな響きは、その奥にある本当に複雑で考え込まれたロジカルな美味しさに対しての思考力を簡単に打ち消し【なんちゃって感】だけがファッショナブルに歩き回っています。
伝えたい食材や五味に対してのサイドからのアプローチはどうして成り立たせるのか。
複合的に構成された香りは、伝えたいインパクトに対してどうやって効果を発揮するのか。
そこまで考えるからこそ【型】を超えられる。
型を超え、想像を超え、次の当たり前に定着させる。
これから作ろうとしているのはそんなお菓子です。
今回はそこだけ伝えたくて書きました。