2025/04/22 08:24
よく、「何か新しいことを始めるんですか?」と聞かれることがあります。
たしかに、今の僕はスタンダードなお菓子に集中したいと思っていて、カヌレやフィナンシェを定期的にご紹介する準備を進めています。
でも、それは僕にとって「新しいこと」というより、むしろ「今のことを深く見直したい」という気持ちの方が近いかもしれません。
この数年間、毎月セットを作って、ご紹介してきました。
今月だけの組み合わせ、今月だけの味わい方、今月だけの物語。
その流れのなかで、いろんな試みを重ねてきました。
楽しかったです。
試作している時間も、考えている時間も、
お客様から反応をいただく瞬間も。
その積み重ねが、今の自分を作っていることは間違いありません。
でも、ふとあるときに思ったんです。
「自分はどこに戻るつもりなんだろう」と。
毎月違うことをするって、たしかに挑戦ではあるけれど、
その挑戦が続いていくなかで、「一度、立ち止まりたい」と思うようになりました。
軸がないまま走り続けている感覚。
何か新しいことをしていても、それを“どこかに戻す場所”がない。
そんなふうに感じていた時期がありました。
そのとき気づいたんです。
僕にとっての“戻る場所”は、やっぱりカヌレやフィナンシェだったんだなって。
同じレシピ、同じ焼き方、同じ手順。
でも、焼き色や香りや立ち上がりが、毎回ほんの少しだけ違う。
その“ほんの少し”を感じ取れるようになってきたとき、
「これが僕のやりたかったことだ」と、すとんと腑に落ちたんです。
それって、もしかすると“挑戦の質が変わった”ってことなのかもしれません。
新しい素材を組み合わせたり、驚きのある構成を考えたり。
そういう表現も大事だけど、
“いつものお菓子”を、より深く、より丁寧に仕上げていくことも、
僕にとっては同じくらい価値のある冒険です。
派手な話題にはならないけれど、
同じことを繰り返しているように見えて、
じつはその中にこそ、ものすごく細かい変化や緊張感がある。
そういう仕事に、今は心が惹かれています。
「またあれを食べたい」と思ってもらえる味。
でも、少しずつ進化している味。
そんな定番のお菓子を、もう一度見つめ直したいと思っています。
これからもセットは作り続けますし、新しいことも試したくなったら試します。
ただ、その中で「いつものあれ」が戻ってくることが、
お店としても、僕自身としても、ひとつの“呼吸”になるような、
そんな在り方を目指したいと思っています。
また、そんなお菓子と一緒にお会いできたら嬉しいです。
あざした。