2025/04/28 11:10
ずっと同じことをしているように見えて、
実は、毎回まったく違うことをしている。
そんな仕事って、案外たくさんあるのかもしれません。
僕にとって、カヌレやフィナンシェはまさにそういう存在です。
同じ配合、同じ道具、同じ手順。
でも、気温や湿度、材料の微妙な変化、自分の手の動きや気持ちの揺れで、
出来上がりは驚くほど変わります。
焼き色がいつもより浅い。
断面の空気の含み方が違う。
食べたときに広がる香りが、前よりもまろやかだった。
そんなふうに、小さな違いを見つけるたびに、
「ああ、これは今までと同じではないな」と感じるようになってきました。
それはつまり、表面的には「いつもと同じ」に見えても、
実際には毎回“新しい挑戦”が隠れているということなんだと思います。
定番って、ただ「変わらないもの」じゃないんですね。
本当は、**「変えてはいけない部分を、守り続ける緊張感のある挑戦」**なのかもしれません。
ちょっとした焼き加減の差が、
「今回、少し香ばしく感じた」という一言につながったりする。
その言葉がもらえるかどうかは、ほとんど運みたいなものだけど、
でも、そういう瞬間を目指して、また同じレシピに向かう。
たぶん、これが僕のスタンダードに対する向き合い方なんだと思います。
新しいお菓子を作ることも、もちろん楽しい。
でも、何度も作ってきたお菓子の中に、
「まだこんな変化があるのか」と驚けることが、今の僕にとっての大きなよろこびです。
“変わらない味”を守るために、ものすごく小さな変化を重ねる。
それができたとき、ようやく「この人の味だ」と思ってもらえるのかもしれません。
派手さはないけれど、
「ここでしか出会えない味」を少しずつ育てていけたらと、そう思っています。
次はVol.4へ。
このスタンダードという選択が、どんな関係性を生むのか。
少し先の話を、また静かに綴っていきます。
あざした。