2025/05/20 07:21
最近、お客様から「今回のフィナンシェ、いつもより香りが立っていた気がします」と言われたことがありました。
そのとき、僕はいつもよりほんの少しだけ、バターの火入れを変えていました。
時間にしたら、たったの数十秒の違い。
でも、意図的だったというより、その日の湿度や自分の気分のようなものが影響して、結果的にそうなっただけだったと思います。
それなのに、その“ほんの少し”を、誰かが感じ取ってくれていた。
それがものすごく嬉しくて、驚いて、そしてちょっとだけ救われたような気がしました。
僕は一人でお菓子を作っています。
でも、味の完成は、作った瞬間じゃなくて、
誰かに届いて、食べられて、感じ取られたときにようやく成立するのだと、改めて思いました。
たとえばレビューをいただいたり、
感想をいただいたり、
「前のあれ、また食べたいな」と言ってもらえたりすること。
それはただのやりとりではなくて、
お菓子を通じた“共同作業”のようなものなんだと思います。
僕が毎月試作して、焼いて、箱に詰めて発送する。
そこまでは「つくる仕事」ですが、
それを受け取って、感じて、記憶に残してくれる誰かがいることで、
ようやく「育てる仕事」が始まる気がしています。
これから、スタンダードなお菓子を「月に1週間だけ」お届けするというかたちを、少しずつ定着させていこうと考えています。
もちろん、僕が作るのは変わらずカヌレやフィナンシェかもしれません。
でも、そこにどんなふうに香りが立っていたか。
どんなタイミングで食べたら印象が変わったか。
それを感じ取ってもらえることが、何よりの次へのヒントになります。
誰かの声が、新しい一手を生み、
その一手がまた誰かの記憶を少し変える。
そうやって、同じようでいて変わり続けるスタンダードのお菓子を、
これからみなさんと一緒に育てていけたらと思っています。
あくまで静かに、ゆっくりと、でも確かに。
またあの週に、お会いできたら嬉しいです。
あざした。